- 医療保険に加入している。
- 医療保険に加入しようか迷っている。
- 医療保険の必要性について知りたい。
医療保険に加入している人に理由を聞くと「がんになったらどうするの?」「入院で働けなくなったときのお金が心配だから」といった、ふんわりした回答が返ってくることがあります。
医療保険の加入に対し、合理的な理由の回答ができないということは、「詳しくは理解していないけどなんとなく加入している」ということと同義です。
利害関係者の意見は抜いて、第三者的視点で医療保険の必要性を考えましょう。
本記事では、「多くの場合、医療保険は必要ない」という内容とその理由について解説します。
なぜ保険は必要なのか?
そもそも、保険は何のためにあるのでしょうか?
本来、保険は「万が一のリスクに備える」ためのものであり、以下の目的のために加入するものではありません。
- 支払ったお金を積立運用するため。
- 支払った分、以上の金銭的なリターンを得るため。(元を取る。)
- 所得控除をするため。
以下の記事でも解説していますが、火災保険や自動車保険は、まさに「万が一のリスクに備える」という保険の目的にそのまま合致している「加入すべき保険」であると言えます。

一方で「医療保険」はどうでしょう?
医療保険:入院は「万が一」ではなく「ほぼ発生する」
医療保険が必要になる主なケースは「入院」です。
では、どのくらいの確率で入院は起こりえるのでしょうか?
30歳・35歳からある年齢に達するまでに入院を1回以上経験する確率
出典:FPウェブシェフ (入院確率を年代別に求めてみた)
上記の表を基にすると、30歳から考えて、70歳までに4人中3人が入院を経験することが分かります。
なので、「万が一のリスクではなく、そのうちほぼ発生する事柄」と考えて差し支えないです。
「万が一」でない保険だとダメなの?
「日常的にほぼ発生する事柄」の保険には以下のようなものがあります。
学資保険:子どもの大学の学費を貯める。
医療保険:入院時の費用を補填する。
※学資保険が「残念な積立型運用商品」であることは、以下の記事に記載しているのでここでは省略します。



火災保険のように、「万が一、火事を起こしてしまった場合の莫大な支払いに備える。」のではなく、「日常的にほぼ発生する事柄」に対する保険は貯蓄に近い特性を持つことになります。
火事:
・「1万人に1人の大きなリスク」に備えて、保険会社に保険料(+手数料)を支払う。
⇒「1万人みんなでリスクに備える」保険らしい保険。
入院:
・ほぼ必ず起こる入院費の補填のために、保険会社に保険料(+手数料)を支払う。
⇒「10人中10人に発生すること」なら、保険会社に高い手数料分を支払わず、10人それぞれに貯蓄するほうがトータルで効率が良い。
健康保険の公的制度
公的制度で、入院時の費用がどのくらい補填できるのかご存知でしょうか?
- 70歳未満の成人の場合、医療費の自己負担は3割のみ。
- ひと月で医療費が100万円かかった。
⇒高額療養費制度で、多くの場合、自己負担金は5~8万円台。 - 入院で1ヶ月間仕事を休むことになり、その期間は給料がでない。
⇒傷病手当金で、月給のほぼ2/3の金額が支給される(1年6ヵ月)。
高額療養費制度
「高額療養費制度」は名前の通り、医療費が高額となった場合に自己負担を抑えてくれる制度です。
- ひと月で医療費が100万円かかるケースでも、多くの人の場合、自己負担金は5~8万円台ですむ。
高額療養費制度を利用される皆さまへ(平成30年8月診療分から)
出典:厚生労働省 (高額療養費制度を利用される皆さまへ)
上記の資料を、要約するとこうなります。
- 月初から1ヶ月の入院で100万円の医療費が発生。
- 健康保険加入者で年齢は69歳以下、年収約370~約770万円である。
入院患者が多い、前立腺がん/食道がん/肺がん/不整脈/心不全あたりだと、平均入院期間が1ヶ月未満、平均医療費がひと月100万円前後となるのでちょうどこのケースに近いです。
この場合では、医療費がひと月に100万円かかっていますが、自己負担は87,430円となります。(2か月目以降も同じです。)
ちなみに、同じく医療費がひと月に100万円かかるケースで年収が約370万円未満であれば、自己負担は57,600円と、さらに割安です。
傷病手当金
会社員や公務員が必ず加入する「健康保険」では、「傷病手当金」制度の利用が可能です。
「傷病手当金」は長期の入院で給料が入らない場合に、収入をサポートしてくれる制度です。
- 「健康保険」の加入者向けの制度。(※国民健康保険は対象外。)
- 入院で1ヶ月間仕事を休むことになり、その期間は給料がでない。
⇒傷病手当金で、月給のほぼ2/3の金額が日額支給される(1年6ヵ月)。 - 連続した4日以上の入院で、給与が発生しないことが条件。
- 入院3日目までの待機期間分は支給されない。
4~10日程度の入院であれば、2/3の金額に減る傷病手当金ではなく、満額もらえる有休消化にする選択肢もありえます。
ひと月100万円の医療費、公的制度のみだとどうなる?
以下のシミュレーションだとどうなるか確認してみましょう。
- 前立腺がんを患い、月初から30日間の入院で100万円の医療費が発生。
- 健康保険加入者で、年齢69歳以下、年収約370~約770万円である。(月収26万円)
- 医療保険には加入していない。
入院に関連の収支例については以下の通りです。
支出:
医療費:高額療養費制度の利用で:自己負担87,430円。
食費:病院での食事代:41,400円。(1食460円×3回×30日)
その他費用:本、雑誌衣類など6,000円。
収入:
傷病手当金:156,006円。(日額:5,778円×27日 *入院4日目から支給)
合計:
+21,176円(156,006円 – 87,430円 – 41,400円 – 6,000円)
シミュレーションでは、あくまで「入院関連のお金」だけ取り上げています。
実際には入院期間中の家賃などの固定費、家族の生活費なども必要になります。
「医療保険」に加入すると保険料として30~70歳までに1人当たり300万円以上支払うことになるはずなので、その分をしっかりと貯蓄に回し固定費、家族の生活費の補填に回しましょう。
入院日数の低下
医療保険のメインとも言えるものは、入院給付金です。
保険料にもよりますが、「入院1日当たり10,000円給付」というものが一般的です。
入院患者が多い、前立腺がん/食道がん/肺がん/不整脈/心不全あたりだと、平均入院期間は20日程です。
ただし、入院日数は以下の通り下がり続けています。
年齢階級別にみた退院患者の平均在院日数の年次推移
出典:厚生労働省 (平成 29 年(2017) 患 者 調 査 の 概 況)
- 医療技術の進歩で、長期間の入院を必要としなくなったから
- 入院日数の短期化を目指す方向で、制度改正されているから
②について補足すると、「診療報酬の制度改正」で、入院日数を少なくする方が病院にとって有利になる体系が導入され、入院日数を減らす調整がされています。
短期化の理由は、いろいろと言われていますが、「高齢化による入院者増で、医療費の国庫負担が膨れ上がるのを抑制する狙い」というのが主だった理由です。
先進医療の技術費用
医療保険のメインの補償は「入院時の費用給付」なのですが、保険によっては「先進医療の技術費用の給付」が付いていることがあります。
先進医療の技術費は健康保険の対象外なので、通常患者が全額自己負担なのです。
「先進医療の技術費用の給付付き医療保険」であればその部分の費用が給付対象となります。
- 未だ保険診療の対象に至らない先進的な医療技術。
- 基本は保険適用内の治療となる。先進医療を希望することも条件次第で可能。
- 治療は一部の医療機関のみに限られるので、希望すれば必ず受けられるものではない。
ちなみに、先進医療で年間実施件数が多いものは以下の4件です。
年間実施件数を見てもらえれば、以下に先進医療を受けている人がいかに少ないか伺い知ることができると思います。
令和元年6月30日時点における先進医療Aに係る費用
令和元年度実績報告(平成30年7月1日~令和元年6月30日)
出典:厚生労働省 (令和元年度先進医療技術の実績報告等について-参考資料1)を基に資料化
ちなみに、金額が高めな「陽子線治療」と「重量子線治療」はがんの先進治療です。
国内のがん患者数300万以上に対し、年間計2,000件ほどの実施件数となっており、単年度の割合だけをみると0.07%と先進医療を選択している方は非常に稀です。
SOMPOひまわり生命の「リンククロス コインズ」は「先進医療技術費」部分だけに絞って保険に入ることができるので紹介しておきます。
(注:回し者ではないです。皆さんがこちらの保険に加入されてもコスパ夫婦には1円も入りません。)
入院給付金が付かない分、20~69歳まで月々500円で加入が可能です。
保険は「必要なもの」に絞って加入すべきです。「うちは若くしてがんになりやすい家系だし、がんになったら絶対「陽子線治療」か「重量子線治療」の治療を受けるつもりだ」という人は選択肢として考えてみてください。
就業不能保険(何か月、何年も働けなくなったら)
医療保険は、入院期間中ずっと給付が続くわけではなく、入院限度日数があります。
近年は「上限120日タイプ」(約4か月)が最も一般的だと思います。
病気や事故で何年も働けなくなった場合、その分を補填するのは「医療保険」ではなく、公的制度(傷病手当金、障害年金)や就業不能保険です。
傷病手当金:
・入院で1ヶ月間仕事を休むことになり、その期間は給料がでない。
⇒傷病手当金で、月給のほぼ2/3の金額が日額支給される(1年6ヵ月まで)。
・連続した4日以上の入院で、その期間に給与が発生しないことが条件。
・入院3日目までの待機期間分は支給されない。
障害年金(障害基礎年金、障害厚生年金):
・1年6ヵ月以上に渡り、けがや病気で生活、仕事が制限されるようになった場合に支給される。
・障害等級、家族構成などの条件で金額が異なる。
・障害基礎年金は「健康保険」「国民健康保険」の両方の加入者が対象。
・障害厚生年金は「健康保険」の加入者のみが対象。(※国民健康保険は対象外。)
ただし、単身世帯の方や家族の世帯主が1年以上といった長期間働けないとなると、公的制度だけだと正直苦しいと思います。
そういったときのためにあるのが就業不能保険です。
就業不能保険は「若くして長期間働けなくなるリスクに備える」ための保険です。
就業不能保険:
・病気やケガで長期間(数か月~数年)働けなくなったときに、収入を補填するための保険。
・金額や、支払開始時期は保険によって異なる。(就業不能になってから60日目以降、180目以降など)
個人事業主、フリーランスの場合はどうすべきか
個人事業主、フリーランスの方が加入されている「国民健康保険」には、今回紹介している公的制度の中の一部の制度がありません。
公的制度 | 会社員 公務員 (健康保険) | 個人事業主 フリーランス (国民健康保険) | 制度の概要 |
---|---|---|---|
高額療養費 | 有り | 有り | ・高額な医療費の自己負担大幅減。 |
傷害疾病金 | 有り | 無し | ・月額給与の2/3近い金額が給付。 ・4日目~1年6ヶ月の間。 |
障害年金 | ・障害基礎年金 ・障害厚生年金 | 障害基礎年金のみ | ・1年6ヶ月経過後から給付。 |
高額療養費制度は国民健康保険にもあるので、「医療費が大幅に減額される」というところは同じなのですが、「傷病手当金」の制度が存在しない点が大きいです。
つまり、個人事業主、フリーランスの方の場合、民間の医療保険や就業不能保険に加入していなければ、多くの場合に
「入院したその日から1年6ヶ月間全く収入がなくなる」
ということです。
なので、会社員と比較すると、個人事業主やフリーランスの方は「もしものときの貯蓄」、「医療保険」「就業不能保険」など、しっかりと備えておく必要性はより高くなります。
まとめ
今回は「医療費の必要性」について記事にしました。
- 会社員、公務員に医療保険が不要な理由。
- 医療保険より、就業不能保険を優先すべき理由。
- 個人事業主、フリーランスは両方入ったほうが無難。
賛成派・反対派の意見を調べ、しっかりと考えた上で判断しましょう。